研究内容

石﨑 純子

科学的根拠に基づく薬物療法と健康寿命延伸につながる指針の構築:
臨床現場の薬物療法には、問題があるにもかかわらず経験的に実施されているものが多くある。特に、超高齢化社会を迎える日本にとって、高齢者の薬物療法の適正化を図り、健康寿命延伸につなげることは、個々の患者はもちろんのこと、その家族・自治体・国家にとっても重要な課題である。この課題解決のために、地域住民に対する啓発活動や臨床研究により問題点を抽出・分析・評価して、科学的根拠に基づく薬物療法と健康寿命延伸につながる指針の構築を目指す。

菅 幸生

がん薬物療法による有害事象は、がん患者のQOLを低下させる主因の一つになります。有害事象に対する最適な予防対策の確立を目指し、臨床データの解析や動物実験により、その発現機序の解明や新規治療法を検討しています。これまでに、オキサリプラチンによる“血管痛”、デキサメタゾンによる“精神障害”、レンバチニブによる“瘻孔・腫瘍関連出血”などの有害事象に焦点を当て、臨床で蓄積されたデータを解析し、がん薬物療法の有効性・安全性の向上に貢献できる研究成果を出すことに注力してきました。現在は、がんの合併症として致死的な播種性血管内凝固症候群における血栓形成に関わる分子の特定、新規血栓症治療薬の検証に取り組んでいます。DICモデルに対するNO合成酵素阻害薬の影響、DICモデルの病態がDIC惹起物質の種類により大きく異なること、DICに対して禁忌と考えられてきた線溶療法治療薬であるtPAが、病態の選択、投与方法の工夫により劇的な効果を発揮することなど、斬新な研究成果を精力的に報告してきました。今後もデータサイエンスと基礎実験を融合した手法により、がん医療の有効性・安全性の向上に貢献できる研究を展開していきたいと考えています。

嶋田 努

「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」というビジョン実現のためこれまでに健康日本21の基本的な方向として「健康寿命の延伸・健康格差の縮小」が推進されてきました。これまでの活動を通して健康寿命は延伸してるものの、一方で日常生活に制限のある「不健康な期間」を示す平均寿命と健康寿命の隔たりは男性で約9年・女性では約12年と、ここ10年においてほとんど変化が見られていません。「不健康な期間」は、国民のQOLの低下のみならず医療費や介護給付費等の社会保障負担の増加に繋がることから、早急に効果的な対策案を見出す必要があります。
そこで「健康寿命の延伸(不健康な期間の短縮)を目指した薬学的介入法の検証と推進」を研究課題と設定しています。服用している医薬品と健康寿命の関連性を検証するだけでなく、薬剤師として加入可能な栄養や運動また福祉用具や衛生材料などの薬事衛生に対する薬学的介入と健康寿命の関連性について検討を進めます。研究手法としては、動物などを用いた基礎研究やリアルワールドデータ(RWD)を使ったデータサイエンス、機械学習による検証、さらに地域医療でのフィールドワークにて検証を進めます。
研究成果は国民の健康寿命延伸への貢献だけでなく、薬剤師業務のエビデンスの創生、今後介護が必要となる患者スクリーニング、さらには医薬品の創出につながることが期待されことから、アカデミア、自治体、職能団体と企業等と密接に連携を取りながら推進していきたいと思います。

吉田 直子

偽造医薬品の存在は、人々の健康を脅かすだけでなく、医薬品の安全性や有効性に対する信頼を損なわせます。また、偽造医薬品の収益は、犯罪組織の資金源になると考えられており、更なる犯罪の拡大へと繋がることが懸念されています。私は、医薬品セキュリティ対策の強化に資するため、「偽造医薬品検出法の開発と医薬品等の不適正流通抑止に関する研究」に取り組んでいます。
実効性のある対策を立案するため、継続的に流通医薬品の実態調査を行い、そこで入手した実在する偽造医薬品を対象として、分光分析や機械学習を活用し、その製剤学的実態解明ならびに検出法の開発を行っています。不適正流通医薬品についても、日々、変遷する流通ルートを把握し、予測することで、実情に合った監視・指導方法の立案を目指しています。
一方で、偽造医薬品や不適正流通医薬品による被害の発生要因の一つに、消費者がインターネット等を介して流通する医薬品に直接アクセスすることが挙げられます。個人の医薬品セキュリティに対する意識向上を図るため、得られた研究成果等の社会還元・普及活動として、積極的な危険情報の提供・注意喚起にも努めています。
これらの活動により、医薬品リスクから患者を守り、より有効かつ安全な薬物治療の恩恵を受けられるよう貢献していきたいと考えています。

医薬品セキュリティの強化

石田 奈津子

未だ根治治療法のない筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病といった難治性神経疾患の患者においては、QOLの維持・向上が大きな治療目標となります。また、身体機能低下やときに精神症状を伴う難治性神経疾患では、家族のQOLも低下します。私は難治性神経疾患の患者や家族のQOL維持・向上のための薬物療法の構築を目的として研究を行っています。
例えば難治性神経疾患患者でしばしば見られる流涎(よだれ)はQOLの低下はもちろん、誤嚥性肺炎により死につながる症状であるにもかかわらず、流涎に対する薬物療法は確立されていません。この流涎に対する薬物療法の構築のために、まずは専門病院における流涎の実態調査を行うことで、疾患の進行や加齢以外に薬剤が流涎に影響を及ぼす可能性を示しました。また、動物実験により経皮製剤による唾液分泌への影響を検討しています。このように、病院や薬局におけるドライ研究と実験室内でのウェット研究を組み合わせることで、臨床疑問を解決していきます。
また、地域におけるフィールド研究にも力を入れており、国保データベース(KDB)を活用した研究や地域住民を対象としたイベントの開催等により、地域の健康をサポートしていきます。

渡辺 宏晃

抗がん薬治療を安全かつ安心して受けられる医療の実現を目指し、有害事象や治療効果を予測可能とするバイオマーカーの探索・構築に取り組んでいます。抗がん薬の多くは、最大限の治療効果を得るために、一定程度の有害事象を許容しながら治療が継続されます。しかし実臨床では、有害事象が出現しても十分な治療効果が得られない場合も存在し、有害事象の発現状況や治療効果には大きな個人差が認められます。こうした個人差には、薬物代謝酵素やトランスポーターなどの薬物動態関連因子のほか、薬物標的や細胞内シグナル伝達に関わる因子が関与していることが示唆されています。
そこで現在は、これらの個人差要因が十分に解明されていない薬物を対象に、薬物血中濃度測定や遺伝子多型解析等を通じて、有害事象や治療効果を予測可能とするバイオマーカーの探索・構築を行っています。本研究を通じて個別化医療の推進に寄与し、患者さんの予後やQOLの向上に貢献したいと考えています。